M&Uスクール

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今週の喝 第797号(2020.7.27~8.2)この世は全て催眠だ(538)〜もしあの時、頭に来ていなければ……?!〜

潜在意識の大活用・あなたが変われば全てが変わる

潜在意識ってどんなもの? 

この世は全て催眠だ(538
もしあの時、頭に来ていなければ……?!

 私が音楽で感動をおぼえたのは、小学校4年生ではじめてドヴォルザーク作曲・交響曲第9番「新世界より」聴いたときと、宇宿允人先生が我が今津中学校へレッスンにお出でになり、ワーグナー作曲・楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より“第1幕への前奏曲”指揮により、雲泥の差が出ることを体感したときです。得津武史先生には申し訳ないのですが、演奏者は中学生なのに指揮者によってこれほどまでに迫力が違うのかを体験しました。
 宇宿先生は、我々今津中学校に4位を点けた意図を、ただ一言「もったいない!」とおっしゃいました。あの時、得津先生が頭に来て、
 「何処が悪いのか教えて貰おうやないか!」
と怒り心頭に来なければ、私の人生も今のようにはなっていなかったでしょう。宇宿先生は、こんなことを全て察していたかのように、他校と比べて、4位を点けたのではなく、県大会を舐めて掛かっているその態度と、子供等の実力を指導者が全力発揮させていないことへの警鐘としての辛い点数を点けたのでした。これは、心と心の綱渡りのような駆け引きであったと思います。
 運命の糸とは、このように細いけれども、確実に求める者と欲する者を結びつける作用があるのです。
 宇宿先生が2時間に渉る熱心なレッスンを終えられ退出された後、得津先生は子供達を前に私を側に置き、宇宿先生指導の指揮法の復習を始めました。私は、2時間のレッスンを傍観者として食い入るように目に焼き付けていたので、違いが如実に分かりました。
 しかし、得津先生がいくら熱心に指揮しようとも、あの「ゥヴァーン!」という響きはしてきません。そこで、私に、
 「何処が違うのんや?梅忠、お前やってみてくれ!」
と、天ぷら棒を渡すのです。

 

★★「何が何か分からん!教えてくれ」★★

 私も食い入るように見てはいたものの、実際に指揮したことはありません。そこで、宇宿先生の指揮を脳裏に浮かべながら、レッスン中の一言一言を思い返して、自分の右手の感触に意識をやると、確かにずしりと指揮棒が重く感じるのです。そうです。得津先生は、その時もまだ今中名物・天ぷら棒を指揮棒に使っていたのです。そこで、宇宿先生が置いて行かれた指揮棒に持ち替えて、思いっきり迫力を込めて鼻から息を吸い、「ウン!」とばかり指揮棒を振り上げる格好をして振り下げた途端、子供達は1秒ほど指揮から遅れて、凄まじい迫力で曲の冒頭の和音を奏でます。
 私自身とても驚きました。この時ばかりは、得津先生も
 「そや、この音や!」
と感動しながら、
 「今度は、ワシがやってみるから、梅忠、見といてくれ~」
と言って、指揮棒を天ぷら棒から宇宿先生プレゼントの指揮棒に持ち替えて振り下ろすのですが、当事者というのは正確に物事を掌握するのが難しいのでしょう、曲の出だしが余計に乱れます。何回繰り返しても上手く行きません。時折、コツを掴んだ私を見本にして、何度も挑戦するのですが、あの天籟(てんらい)は聞こえてきません。
 その時、下手(しもて)の方から「下手(へた)くそ!」とボソッと声が聞こえてきたのです。その言葉に即座に反応した先生は、
 「誰じゃ、今いらんことぬかしたんは……?」
とサキソフォン、ユーフォニアム、チューバが陣取る下手の方を睨むと、ユーフォニアムの3年生が、ユックリと右手を挙げて、
 「僕が言いました。ホンマのこと言(ゆ)うて何が悪いんですか?下手くそは下手くそやないですか。先生は、僕らができひんかったら、天ぷら棒でしばくやないですか」
と正面切って逆らうのです。天下の得津武史先生に現役が逆らうなど私のような小心者には想像も付かない事態です。それに、マジでトサカに来た先生は、ツカツカと早足でユーフォニアムの生徒に近づいて行き、頭に天ぷら棒の一撃を振り下ろしたのですが、彼はスルッと逃げて空振りです。そして、ユーフォニアムを持ったまま先生の追撃を躱(かわ)し、体育館中を逃げ回ります。やがて年の所為で先生は息が続かなくなり、座り込んでしまいました。その光景に他の生徒達もヤンヤの声援を送り、それに勇気を得たユーフォニアムはおどけて、
 「腹立つんなら、チャンと棒振ってぇや!」
と囃し立てます。これには得津先生も、シャッポを脱いだのでしょう。
 「今日は、練習終わり!宇宿先生に言われたこと、お前等チャンとやっとけよ。ワシもキッチリとやってくるからな。解散!」
と、突然練習を終了して、
 「梅忠、今から飲みに行く。付いて来てくれ!」
と久寿川(くすがわ)駅前(今津と甲子園の間の駅)にある安くて美味しい中華料理屋「東海楼」へ引っ張って行かれました。サングラスの奥の眼は、ハッキリ見えませんでしたが、きっと悔しさでいっぱいだったことでしょう。先生は少々大きめのコップ酒を一気に飲み干すと、私に、
 「宇宿先生が教えてくれはったことが素晴らしい事は分かるけど、どこがどうか、何が何か、よう分からん!但し、違いだけは分かる。梅忠、お前はチャンと棒振れるよって、明日から、ワシにおせて(教えて)くれ」
と、先生が教え子の私に頭を下げるのです。
 この日は、宇宿先生のレッスンと得津先生のコンクールに向けた素直で一途な心をハッキリと感じることが出来て、我が生涯で最良の日として鮮明に覚えています。

 

       この続きは、来週のお楽しみ……('-^*)/