M&Uスクール

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今週の喝 第796号(2020.7.20~7.26)この世は全て催眠だ(537)〜演奏者は、自分の意思を持て!〜

潜在意識の大活用・あなたが変われば全てが変わる

潜在意識ってどんなもの? 

この世は全て催眠だ(537
演奏者は、自分の意思を持て!

 私の生涯において、昭和47年8月31日ほど、大きな印象を受けた日はありません。兵庫県吹奏楽コンクールで、4位を点けた審査員・宇宿允人(うすきまさと)先生を招いて、我々の演奏のどこが悪かったのか教えて貰おうと、我が校に招きレッスンを受けたのです。
 そして、先ず得津先生が県大会のコンクール以上の迫力で、宇宿先生の前で自由曲「マイスタージンガー」を演奏しました。
 そして、次に宇宿先生が指揮台に立ち、
 「先ず、得津先生と同じように指揮してみますから……」
と言って、指揮棒を「3,4!1」と指揮法の教科書通りの指揮をされました。それを見ていた生徒達は、「バーンバーババー」と曲の冒頭の「ドソソソ」をフォルテで演奏します。それを聴いていた私や父兄は、「さすが良く訓練が行き渡っているなぁ」という思いで最初の8小節を聞いておりましたが、次に宇宿先生は、
 「皆さんの音楽には心というものが感じられない、私たち人間の心には“迫力”という神と通じるパワーがあるのです。それは、天から降り注ぐ音(天籟(てんらい))なのです。さあ、私と一緒に呼吸を整えて、辛抱しきれなくなったときに思いっきり吹いてみて……!」
と言って、指揮棒を通常通り「3,4」とカウントをせず、うなり声を「ウーン」とあげて、指揮棒を力一杯振り上げるのです。
 次の瞬間、生徒達は渾身の力を込めた先生の指揮をシッカリと注視していたにもかかわらず、ウンともスンとも誰1人音が出ません。そう…どこで出して良いのか分からないのです。
 宇宿先生は、
 「あなた達は、いつも得津先生の命令一下、セイノ!という掛け声で楽器を吹いていましたね。音楽は、あなた達自身が演奏するのであって、先生の命令で演奏するのではありません。先生の指揮は切っ掛けであって、先生の“気”を感じ、その気が高みに達したとき、矢も盾もたまらなくなって音になるのです」。

 

★★思わず、スタンディングオベーション!★★

 こんな解説の後、宇宿先生は指揮棒を体育館の天井に届くくらい高く指揮棒を振り上げました。そして、その指揮棒が床に落ちた瞬間こそ、私たちの心が音楽に向かったときだと教えて下さいました。そして、
 「指揮棒をいちいち放り投げていては何本有ってもたらないので、それを放り投げた所を連想しなさい。そうして指揮棒の着地点を想像して、それを45人が全員その想像力を一つにすることで気迫が出るから、やってみなさい。私の指揮棒が天井高く舞い上がって、それが自然に落ちてくるのを想像するのです」
と言ったと思うと、すぐさま、鼻息荒く「ウン!」と気迫を込めて、指揮棒を下ろしました。生徒達は、指揮棒が放り投げられるとばかり思っていたのに、指揮棒が下ろされたので、何処に指揮棒が行ったのか見失った状態になり、全員が指揮棒の在処を想像することで「マイスタージンガー」の初めの音を吹いたのです。その時の音を文章にするのは至難の業ですが、得津先生の指揮の時は「バーン!」だったのに対して、宇宿先生のタクトでは「ゥヴァーン」と、肚の底から響いてくるもの凄いサウンドです。そして、その後も、凡そ今迄指揮法の教科書でお目に掛かったことのないような、何処が1拍目か分からないウネウネとした指揮に、生徒達は指揮棒を見るのではなく、“気を合わせ、相手の音を聞く”ことに神経を集中してゆきました。曲のニュアンスの変わり目になると、宇宿先生が何を自分達に言いたいのかが「無言」で伝わってくるから不思議です。
 そして、何と一気に7分間の「マイスタージンガー」が演奏されました。曲が終わった途端、私も父兄もそこに陣取っていたみんなが無意識に、椅子から立ち上がってドーッと拍手をしていました。そう「スタンディングオベーション」です。
 宇宿先生が指揮台に立たれて、たった一つ注意をされただけで、今迄の中学生がプロの音楽家と聞き間違うほどの迫力と音楽性を発揮し、我々の感覚を刺激してきたのです。今思い返せば、その時の感動が私を音楽の道に進ませる機動力になったと言っても過言ではありません。そして、音楽とはそれを知っているかどうかではなく、如何に感性に届く感動を与えるかどうかだと気付いたのです。
 それまでの私は、楽器を如何に滑らかに早く演奏できるかといった技術のみに自分を駆り立てていました。しかし、そこに「気迫」が加わることで“命”が吹き込まれるのです。
 その後、指揮法の違いで、同じ中学生がどれほど違う演奏をするかを、懇切丁寧に指導して下さり、得津先生にも生徒の前で何度も何度も指揮法をレッスンして下さいました。しかし、宇宿先生のようなサウンドと迫力は出ません。そこで、宇宿先生は、
 「どんな指揮棒を使っているのですか」
と尋ね、得津先生は今中名物の“天ぷら棒”をそっと差し出しました。それを宇宿先生は2,3度軽く上下に振ったかと思うと、
 「この指揮棒は重すぎる、細かいニュアンスを表現できません。これからは、ケチらずに本物の指揮棒を用いることを進言します。ここに私の指揮棒をプレゼントしますので、シッカリと練習して下さい」
と、得津先生に全てを改善することを言われて、その日のレッスンは終わりました。そして、体育館にはただただ感動の余韻だけが色濃く漂い、
 「4位点(つ)けよった輩がおる。ボコボコにやってもたる!」
と言った暴力的気迫など霧散しており、父兄全員が本物に接した感動と今中の未来に希望の光を見たのでした。

 

       この続きは、来週のお楽しみ……('-^*)/