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この世は全て催眠だ（６）
〜メスメルとコロンブスの共通点〜
メスメルとコロンブスの共通点、それは、メスメルが催眠法を、コロンブスはアメリカ大陸を発見したにもかかわらず、二人共それが催眠法であり、アメリカ大陸だと言うことを知らなかった点です。メスメルは動物磁気だと信じ、コロンブスはインドだと信じていました。後世になって、多くの人々がこれら偉大な発見を立証してゆき、その真の成果が確認されることもしばしばです。
メスメルは、実際に催眠治療を施し、一定の成果を挙げていたにもかかわらず、それが暗示によって自然治癒力が活性されたと言う見解に至らず、動物磁気エネルギーによると解釈したため、諮問委員会まで組織されて、その実態調査が為されました。その結果、ある特定数の人間に治療効果が認められたにもかかわらず、反対者は、動物磁気ではないという理由でメスメル潰しに掛かり、ペテン師の烙印を押し、歴史から追放してしまいます。これも、今考えれば、メスメルの不徳のいたすところで、人間関係をしっかりと確立せず、自分が特殊な能力を持っていることを喧伝したために起こった悲劇です。
そして以後、ブレイドが「一つのものを長時間見つめることによって視神経が疲労して眠気を誘い、その為トランス状態に入り暗示を受けやすくなる」という神経疲労説をとり、動物磁気とは何の関係もないことを実験によって証明しました。
メスメル追放後も、彼の弟子たちは独自に研究を続けます。そして、その一人ピュイセギュールは、彼が誘導すると被験者は忠実に言うことを聞き、催眠トランス状態へ導かれてゆくのに気付きました。メスメルの前では、疑問を投げかけ逆らう人間も、不思議と従順になり品が良くなるのです。
＝催眠史上の大発見＝
このピュイセギュールという人物は、フランスでも屈指の名門貴族の家系で、侯爵の称号をもち「御領主様」でありました。そして、フランス貴族の中でも進歩派に属し、一般貴族が博打や狩猟に資産を投じたのに対し、彼らは慈善事業や科学研究などに使っていました。当時のフランス社会では、貴族達は金儲けすることは不文律で禁じられていたので、メスメルが高貴なご婦人達から多額の治療費を巻き上げていたのと反対に、ピュイセギュール侯爵は、自分の領民に無料で催眠療法を施していました。
この違いが、大きな発見につながります。メスメルのところに治療に来る人達は、「お金さえ払えばよい」という考えの人も多く、そこに性質の悪さが出る人間もしばしばでした。また、我々が手品の種明かしを求めるように、フランス革命後に生まれた新興成金（ブルジョア）には、よりその傾向が強い者が多かったのです。そのためメスメルは、催眠治療を施す側として、より強い威厳ぶりを、環境や衣装、言葉遣いや振る舞いからふりかざさなければなりませんでした。
しかし、ピュイセギュールは何代も続いた御領主様であり、慈善事業のように治療費を取らなかったため、始めから威厳や威光が自身に備わり、施術を受けに来る領民も始めから尊敬と敬意をもって接したのでした。そして、身分の高いピュイセギュールは質の良い教育を受けていたため、上品な振る舞いや言葉に、被験者達は親近感を覚え、施術後は下々の者達も言葉や行動が美しく変化したと言います。このように従属と親しみの入り交じった人間関係が構築された上に催眠誘導してゆくのですから、自ずとトランス状態に誘導されやすかったのです。
これは、現在の研究では「ラポール」「威光暗示」として、催眠に誘導するためのプライマリーな人間環境作りが、すでに（偶然）出来上がっていたのです。そのため、ピュイセギュールの催眠はその治癒率が増加していたのです。
ラポールとは、「信頼関係・関連・類似点」という意味合いのフランス語です。それを、先のメスメルが自分の動物磁気に感応した患者との間に生じた関係を表現するために用いました。それ以来、セラピストやカウンセラーが被験者との間に通い合う心のことを指すようになりました。ラポールが出来ると、打ち解けて話が出来る状態になるので、そこに疑問やイチャモンが入り込むスキが無くなり、催眠誘導が容易になります。
そして威光暗示は、名誉や地位のある人やその道で有名な人の言葉は、一般の人の言葉よりパワーがある現象です。身近では、お医者さんの言葉や態度は患者に大きな影響を与えることからも理解できます。説得力の弱い人でも、他人が「この方は○○の大家だ」などと紹介されると、不思議に、相手はその言葉になびいてしまいます。
このように、ラポールと威光暗示という、人間が大きく心動かされるベースをピュイセギュールは発見したのでした。
この続きは、また来週……('-^*)/
