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今週の喝 第155号(2008.4.7〜2008.4.13)〜偉人に学ぶ……白隠禅師(7)〜

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偉人に学ぶ……白隠禅師(7)

 白隠禅師は十五歳で出家し、二十四歳で正受(しようじゆ)老人と出逢い、二十六歳で禅病を煩ったのをきっかけに、京都・白川で白幽子(しろゆうし)に出会っています。その機縁で病を克服した白隠は、修行のため日本全国を行脚し、三十三歳のとき、自分のふるさと静岡の原にある松蔭寺の住職になります。それから四十年後、七十三歳の時に、有名な「夜船閑話(やせんかんな)」を著述します。
 「夜船閑話」とは、夜船の中で過ごしている暇な時にした無駄話というような軽い意味です。しかし、その内容は、自分が禅病に罹り、それを克服する療法を白幽子より伝授され、自らも実践し人々に伝えてきた内容が印されています。七十三歳という高齢で出版したいきさつは、この本の前書きに次のように記されています。
 「自分を慕ってやってくる弟子は後を絶たない。そして、彼らは貧乏寺ゆえ食う物も食わず修行に励み、また、自分の厳しい叱咤に耐え、棒で打たれても逃げ出さない。十年二十年と修行に励む俊才たちばかりだ。外道から見ても哀れに思うほどよくしごいたものだ。
 しかし、寺を訪れる時は年若い美少年のように肌つやの良い彼らも、修行を重ねるうちにみるみる晩年病死した詩人杜甫(とほ)のように、顔色はやつれ幽霊のようになってしまう。そればかりか、熱心なものほどしばしば体力の限界を超えてしまい、肺を患い、全身病の巣となってしまう。私はそれを見るに忍びず、私が若い頃白幽子から受けた〈内観の秘法〉を授けることにした」

=リアリスト白隠=
 夜船閑話の序文には、さらに白隠禅師が「内観の秘法」を知っていて、密かに筆記したものがあるが、かくして人に見せないと噂している。そこで白隠自身古い書庫を開いてみると、原稿はもうすっかり本の虫に食われていたので、弟子たちに写させて出版することになったとそのいきさつが書いてあります。
 参禅、修行している人間がノイローゼの極に達し、肺・心・肝など内臓がすっかり調和が乱れてしまった時は、鍼灸や薬では治すことができないが、自分が知っている秘術を用いれば、霧を払って太陽を見るがごときの効き目を手にすることができると自信たっぷりに言っています。
 そして、この秘術を実践しようと思うなら、まずしばらくの間、禅問答(公案)について真剣に考えることを止めるように示唆しています。禅の修行をしている人間が、禅問答を止めると言うことは修行の中断を意味します。しかし白隠はまさに「命あっての物種」とばかり選択肢を禅の公案だけにとどまらせず、人生という長い道のりの一時期であることを自覚し、健康回復を最優先に考えて、コンディションの良い状態で修行することを薦めています。まさに、白隠の教えは現実をしっかりと見つめ、心と体の調和がとれた状態で修行しなければ、無碍に身体をいじめるだけに過ぎないことを教えています。釈迦「苦行必要なし」と述べたように、真の悟りとは命との対話であると述べているのと同じ境地に達したのです。
 では、修行を止めてどうするのか……白隠は、まず熟睡して、それから目を覚ませと言います。まさに、当時としては相当なリアリストであった訳で、言い換えれば、変人扱いもされたことと思います。
 そして、横になって熟睡するか、両足を長く伸ばして強く足を突っ張り、全身の気をおへその下の下腹部(臍下丹田)から腰へ、そして足から土踏まずへとイメージによってながしていけと教えています。
 白隠は臍下丹田こそが、自分の本性であり、またそのまま唯心の浄土である。浄土はまさに我が心にあると、喝破しています。
 しかし、白隠はこれを完璧にやろうとする必要はないと説き、この全身に気を流すイメージを、不完全でも何度も何度も繰り返しているうちに、いつの間にか、腰・足・土踏まずに気が満ちてくる。そして下腹部がひょうたんのような形になって、ボールのようにしなやかになってくると言うのです。
 現代の医学では、アメリカの心理社会腫瘍学の権威カール・サイモントン博士が、イメージを用いたいろいろな療法が免疫活性に大いに役立つことを証明しています。彼は「病気は、あなたがあなたの本性から離れてしまっていることを、教えるためにある」と説き、癌をはじめとする難病治療に大いなる成果をあげています。
 白隠は江戸時代中期に、すでにサイモントン療法と同じ心理療法を確立していたのです。 すごいですね。

  衆生本来仏なり、
    衆生のほかに仏なし 白隠


この続きはまた来週……('-^*)/