潜在意識の大活用・あなたが変われば全てが変わる
潜在意識ってどんなもの？
この世は全て催眠だ（６６４）
ワシの夢は何や？ワシは一体何者や？
アカンタレ忠洋であった私（梅谷忠洋）に、今のような性質と行動力を与えて下さったのは、紛れもなく今津中学校吹奏楽部顧問の得津武史先生でした。先生の事をこのように思い出して文章にすることは、私にとって青春回帰でもありますので、もう少し辛抱してお付き合い下さいませ。
若き日の得津先生は、終戦後、食を求めて進駐軍まわりをして糊口(ここう)を凌いでおりました。この頃のことを先生は、
「何をやっても身が入らんかった」
と、シミジミ遠くを眺めながら話していました。その時の顔は、連続日本一を下町今津にもたらした偉大な人間の欠片など微塵も感じさせない哀愁がありました。
酒に溺れ、西宮の繁華街を夜な夜なうろついては、スーダラ節の歌詞の如く行き当たりばったり、ベンチでごろ寝……後年の先生の口癖は「酒は愉快に飲まなあかん」というポリシーは、全くありませんでした。
「ワシは何のために生きているんやろか・・」
と自問自答する中に回答は見つかりませんでした。
“音楽”……「これも生活するためだけのモンや！」
「ワシって一体何者や？何が夢で、何が希望なんや」
こんな自問自答を何度も何度も繰り返して、また酒をあおる毎日です。そんな日々の中で、一晩中飲み明かすこともしばしばありました。そんなある日、降りしきる雨の中で自制心を失った先生は、遂に学校の校舎らしい建物の軒先にうずくまって寝てしまいました。
夜明けになって、その校門の辺りがにわかに騒がしくなってきました。薄目を開けた先生の眼に飛び込んできたのは、楽器を抱えて校門を乗り越え、校内のグランドに駆け込んで行く少年達の姿でした。
★★得津さん、後は頼んだで……！★★
やがて、彼らが練習するラッパのロングトーンが聞こえてきました。濃い霧のような混濁した意識の中で、この世のものとも思えない音に耳を傾けました。先生にとっては聞き慣れたサウンドでしたが、遠い遠い昔の懐かしい音のように聞こえてきたのです。先生は校舎の軒下に横になったまま、いがぐり頭の少年達が一所懸命吹くラッパの音にじっと聴き入りました。
そんな事があって数日後、その昔一緒に吹奏楽を志したことのある鈴木竹男氏から電話が掛かってきたのです。それは何と、あの夜明けのラッパを聞いた中学校、西宮市立今津中学校の音楽教師に得津先生を推薦したいという話でした。
鈴木竹男氏は、後年阪急少年音楽隊の隊長として名を馳せる吹奏楽界の重鎮です。これは私事ですが、鈴木先生は昭和22年に学区制が新制中学になったと同時に、今津中学校の音楽教師になった方です。そしてこれまた偶然に、我が母・洋子のクラスの担任になった先生です。鈴木先生は関西学院大学の男声合唱団（グリークラブ）出身の音楽に精通した素晴らしい指導者で、当時、阪急電鉄、阪急百貨店の創始者である小林一三(いちぞう)氏に見いだされ、当時流行した百貨店の少年音楽隊（東京では三越少年音楽隊）を“阪急”でもということで白羽の矢を立てられたのです。鈴木先生が阪急少年音楽隊の創設を任されたので、今津中学校の後任に得津武史先生を推挙したのです。
従って、今津中学校吹奏楽部を創部したのは鈴木竹男先生で、得津武史先生は第2代目です。
「得津さん、今津中学校はね、生徒の大半が通学する道の両側に（ポルノ）映画館、パチンコ屋、飲食店が軒を連ね、ご存じのとおり夜は酔っ払いの街にあるんですよ。」
という勧誘を、得津先生は頭を掻き掻き聞いたそうです。
「この街は、教育的環境にはほど遠い。こんな状態の下で、音楽の授業に高尚なクラシック音楽を聴かせて理解させるのは無理かも。だからこそ、彼等に楽器に触れさせて音楽を演奏する歓びを与えてやりたいんや。僕が手がけてきたこの吹奏楽部をアンタが変わって鍛えてくれませんか。君なら絶対に出来る。後は頼(たの)んまっせ！」
あまりにも唐突な鈴木竹男先生からの誘いでしたが、この話を聞いた瞬間、得津先生は身震いするような運命的な出会いを感じたといいます。
これこそ“天”の仕業！また得津先生にとっても西宮で一番上品な街である夙川小学校から、得津先生流の表現を借りると「文化果つる地・今津」。まさに先生の性格にピッタリとフィットした街の先生に就任したのです。
こんな経緯(いきさつ)から、得津武史先生は今津中学校吹奏楽部の顧問に就任し、やがて今津に生まれ、今津に育った私を音楽の世界に誘ってくれるのです。
この続きは、来週のお楽しみ……('-^*)/
