M&Uスクール

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今週の喝 第809号(2020.10.19~10.25)この世は全て催眠だ(550)〜いきなり、本格的な指揮の前で!〜

潜在意識の大活用・あなたが変われば全てが変わる

潜在意識ってどんなもの? 

この世は全て催眠だ(550
いきなり、本格的な指揮の前で!

 宇宿允人先生の下宿先の玄関の踊り場で待つこと10分!朝秒針まで合わせた腕時計を見て、午前10時きっかりに玄関チャイムを押しました。すると、中からハーイと言う若い女性の声がして、ガチャッと扉が開くと、
 「梅谷さんですね。どうぞ、先生が待っておられます」
と、招き入れられました。中に入った第一印象は、ニューヨークフィルで研鑽を積まれ、朝比奈隆先生の招聘で大阪フィルハーモニー管弦楽団の専任指揮者であるマエストロのマンションとは思えない、質素な2LDKです。その8畳の部屋にアップライト(縦型)のピアノがあり、大きな本棚には総譜(指揮者用の楽譜)がぎっしり詰まっていました。
 大阪梅田の阪神百貨店で買ってきた菓子折を手渡し、
 「今日からお世話になります。梅谷忠洋です」
と儀礼的挨拶を済ませると、先生はその若い女性に、私が持っていたバッハ作曲管弦楽組曲第二番ロ短調BWV.1067のピアノ譜を渡し、
 「浅井くん、これを弾いてあげなさい。彼は今度フルートソロをする梅谷くんだ。20歳だよ」
とピアノの譜面立てに当たり前のようにスッと置くと、先生はたった二人なのに、本格的に指揮をし始めました。
 私は、それはもう一から十までチェックされると思って練習に臨んだのですが、何とどこのチェックもないまま、30分の曲がストレートに終わりました。そして、
 「序曲のフーガの部分だけど、アーティキュレーション(楽節の区切り)をアウフタクト(前拍)から演奏しなさい。音楽は全て一拍目から始まるのではなく、4拍目からだと思えば良い!足を一歩踏み出すときも、かならずその足を上げることから始めるだろ。だから、何事も準備が大切なんだよ。我々日本人は“終わり”という言葉一つとっても、一拍目から始まるが、英語やドイツ語はThe End、 Das Endeとアウフタクトだ。これから、音楽は全部そのようにしなさい!」

 

★★私は、見捨てられたのか、それとも完璧なのか?★★

 私の初めてのレッスンは、たったこれのみの注意でした。その時私は、
 「あぁ、見捨てられたなぁ。私の演奏がたった一箇所の注意で終わる訳がない。これは完全に諦められたのだ」
と落胆していました。得津先生のスパルタ教育が反面に出た瞬間でした。スパルタ教育は、「悪い面を修正する」ことに主眼を置いていますので、全体的に否定から始まります。従って、この頃の私はとてもマイナス思考であったのです。
 また、その時ハッと気付いたのですが、私が必死になって寒風の鴨川で練習した楽譜は、フルートのみのパートです。しかし、ピアノの浅井芳子さんは、弦楽4部の全パートを一台のピアノで難なく弾きこなすのです。それも“初見”で……。これが、浅井芳子さんとの初めての出逢いでした。
 上には上などとチャラケた言葉では表現できない、最高の感覚と感性の持ち主で、出身は東京芸術大学ピアノ科を首席で卒業した秀才です。そして、彼女も次のコンサートでモーツァルト作曲ピアノ協奏曲第20番ニ短調を演奏するので、朝8時から先生にレッスンを受けていたのです。
 私は、先生が序曲のフーガで教えて下さったように、どの楽章もバカの一つ覚えでアーティキュレーションを、今迄の「1,2,3,4,」から「4,1,2,3,」と意識して、序曲、ロンド、サラバンド、ポロネーズ、メヌエット、そして最後のバディネリまで一気に吹きました。先生は、
 「浅井くん、彼の笛を聞いて分かっただろ。彼はフルートを誰にも習ったことがないそうだ……」
と意味の分からない会話です。そして、お茶をはさんで、もう一度始めから終わりまで通して、その日の練習は終わりました。
 「次の練習は、コンサートの2日前にオケ合わせをするから」
と言われ、先生の下宿を後にしました。あまりにも何も注意をされなかったこともあり、「良く吹けた!」という満足感もないまま、大阪南森町の天神橋筋商店街をションボリと歩いていると、後ろから甲高いハイヒールの走る足音が私に近づいてきます。そして、肩をポンと叩かれて、
 「梅谷くん、あなた今日ちょっと時間ある……?そこの喫茶店でフルーツパフェご馳走するから、付き合って……」
と、浅井さんに呼び止められました。そして茶店で、開口一番!
 「何で、あなたは宇宿先生のおっしゃることが一度で分かったの?どうしたらあんなに素直にリズムを変更できるのか知りたいのよ」
 浅井芳子さんは、後に滋賀大学教育学部の教授になる方。そして、奈良大和郡山の「友雀(ともすずめ)」という銘柄の造り酒屋(今は廃業してありません)のお嬢さんで、私よりも5歳年長の超秀才です。あんな複雑なフーガを初見で伴奏してくれただけでも驚きなのに、その家柄、育ち、学歴など、それこそ無等々……比べようのない存在です。私はフルーツパフェをご馳走になりながら、こんな素晴らしいピアニストに巡り逢えたことに歓びを感じました。
 「私は、朝から二時間掛かって、まだ一楽章しかレッスンしてもらえなかったのに、あなたは何故最後までスムーズに、まるで宇宿先生のおっしゃることを予見するように吹いたわ。正直言って、私は悔しい……。ねぇねぇ、今度の日曜日もし良ければ私の家に来てくれる?」と、晩ご飯付きでお誘いを受けました。

 

     この続きは、来週のお楽しみ……('-^*)/